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Rapha Prestige Kamikatsu


秘境。

谷の底から見上げた上勝の景色を一言で表すと、その言葉がしっくりくるのではないだろうか。

「コースの序盤にあそこまで駆け上がるんだ。」

首を上げないと山頂にそびえる風力発電の風車群を視界に捉えられない。それが山肌の斜面の険しさを表している。

林業を生業としているメンバーのオガッチョが真っ先に「俺はここで林業はしたくない」と言い放った。

参加チームの中でMOZU COFFEEは国内のRapha Gentlemen’s Race、Rapha Prestigeの参戦数では恐らく最多だ。

それはチームの矜持でもあると同時に、メンバー全員にとってプレッシャーでもあった。

秘境を駆け抜ける150km/3,800m upのハードなコースを完走することが至上命題。実質的なチームリーダーの丹野さんはオフィシャルのフォトとしてこの冒険を見つめる側にいた。足切りでDNFなんて恥ずかしい姿は見せられない。

ルートは想像以上に過酷だった。

山間部の乾いた空気は未だ冬の気配をかろうじて残す風と混じり、羽織ったジレを脱がせてくれなかった。

全く未知のルート戸惑い、ペースが掴めない。終わらない九十九折、そして刻一刻と迫るタイムリミットに脚を休ませる余裕はなかった。

限界集落とも言われる上勝地方、集落を離れた山奥にコンビニも自販機も期待できない。あらゆるポケットに詰め込んだ補給食もほぼ食べ尽くした。

険しい斜面に挑む上りがあるということはそれに比例するだけ下りもある。まるで直滑降するかのような傾斜の下りでは全員が勇気を試された。

襲いかかった3度のグラベルは悪路を得意とするMOZU COFFEEの面々ですら手を焼いた。ガードレールもない道の向こうは…ご想像におまかせします。

時に合流する他のチームとのコミュニケーションだけは、身体にじわじわと積み上がってくる重い疲労を癒す清涼剤だった。

制限時間から遅れること32分、私たちは5人全員でゴールとなる月が谷温泉へ帰ってきた。

全チームでの完走率はほぼ50%…まさにサバイバル。

残念ではあるが制限時間内でのゴールにはならなかった…ただ、上勝の自然に翻弄され、くたくたになった身体には達成感があった。

あの日、上勝を走ったサイクリストの視点でいくつもドラマがあったのだろう。

そう思い返しながら上勝で過ごしたあの日のことを思っている。

今回のリーダー、ギスケこと中川さんは終始メンバーを鼓舞する明るい言葉で励ましてくれた。

脚の強靭さもさることながら、頼れる兄貴分だと改めて実感した。

わずか半年前にこちらの世界に魅了され、今回初めてMOZU COFFEEとして参戦したコルピー。チームで唯一の元実業団レーサーだ。

グラベルを走破するための重装備なバイクを軽々と操りながら常にチームの先陣を切り、ルートの安全を約束するエスコートを担当してくれた。

サイクリング歴1年という経験値でこのハードな舞台にやってきた徳さん。彼もMOZUrideを通してこちら側へやってきたサイクリストだ。普段のライドと変わりなく自分のペースで淡々と道を走破し、初めての大冒険をノートラブルで終えてゴールラインまでたどり着いた。

そしてメンバーで唯一、家庭を持つオガッチョ。家族サービスの合間を縫ってトレーニングしていたとはいえ、彼自身でもコンディションの仕上がりが十分でないことは自覚があったようだ。

それでも彼はやり遂げた。急斜面を横に、最後のグラベル区間でも意地でサドルに跨ろうとする姿を近くで見ていて心打たれるものがあった。

今回も強烈な舞台を用意してくれたRapha Japanの皆さん、コースの試走を何度も何度も繰り返してくれたShiokaze Storeの皆さん、そしてあの場所に集ったサイクリストの皆さんには尊敬の念に堪えません。 それぞれがあの世界から離れ、普段の生活に戻って行きましたが、どこかのライドで再び会いましょう。

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